質問箱
質問5. 口臭の主な原因は何ですか。
 口臭の主な原因として、歯周病、舌苔、鼻やのどの病気が挙げられます。さらに、むし歯で歯に穴があいているのに放置していたり、辺縁があっていない冠などが入っていたり、親知らずが変な方向に生えてきたのに放置したりしても口臭が発生しやすくなります。また、唾液の分泌量が少なくなってもおこりますが、これは、生理的に少ない場合と薬の副作用で少なくなっている場合、さらにコーヒー等のカフェインによって少なくなる場合などがあります。
 主な原因である歯周病ですが、歯の表面や歯と歯肉の間の細菌のかたまりであるプラークが長いことたまったままでいることで、歯肉に炎症が起こる病気で、口臭に悩む人の多くに見られます。炎症が起こると、口の中の細菌が増えたり、たんぱく質を多く含む血液や膿(うみ)などが増えてくるため口臭が起こってきます。「舌苔(ぜったい)」とは、舌の表面に付着する白っぽいこけのようなもので、プラーク(細菌のかたまり)とほぼ同じ成分と考えてよいでしょう。体調を崩したときなどに、この舌苔が一時的に増えることがあります。これもほうっておくと、口臭の原因となります。鼻とのどは、口とつながっているため、鼻やのどに何らかの炎症があると、たんぱく質を含む血液や膿(うみ)が口の中に大量に出てきてしまい、その結果口臭が起こります。具体的には、慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)や咽頭炎(いんとうえん)喉頭炎(こうとうえん)などの病気が、口臭の原因となります。
 原因をはっきりと理解して、予防に努めたいものです。
質問4. 歯をもっともっと白くしたいのですが、どのような方法がありますか。
 歯の色が黄色い、あるいは灰色だ、といったことを気にしておられる方がいらっしゃいます。そのような方は、人前でなかなか歯を出して笑うことができずに、暗い印象をもたれてしまうことも多いようです。白い歯に変えるというホワイトニング技術は、歯科治療の中ではすでに確立された技術です。歯を白くするためのアプローチとして、専門用語になりますが、クリーニング、ブリーチング、ダイレクトボンディング、ラミネートベニア、被覆冠、などのいくつかの方法があり、そのうちのどれが良いというのではなく症例によって選択されるものです。しかし、私どものように「ダウンサイジング」をコンセプトとして診療している一開業医として、できるだけご自身の健康な歯を傷つけることなく(切削されることなく)歯が白くなるような方法が、最初の選択肢だと思います。
 歯を白くするための確立された方法がある以上、まずホームドクターの先生にご相談されることをお勧めします。症例によっても納得できる方法はあるはずです。
 一度しかない人生を、いつも明るくそして歯を見せながら笑って生活したいものです。
質問3. P(M)TCとは、どんなことをすることですか。
 P(M)TCとは最近言われだした言葉で、Professional (Mechanical) Tooth Cleaningの略です。口腔内の疾病の原因となる細菌性プラークに対してバイオフィルムという概念が導入されてきましたが、それらを歯ブラシだけで完全に除去することはできないと言われています。したがって、それらを定期的に除去することは口腔内の病気予防の第一歩です。つまり、歯科医師や歯科衛生士のように特別な教育や訓練を受けた専門家が、器具やペースト(多くはフッ化物入り)を用いて歯面およびポケットに存在しているプラーク(バイオフィルム)を機械的に選択除去することを言います。日野浦歯科医院では6ヶ月ごとを基準として行いますが、その人の細菌量や衛生状態、歯周病の状態などを総合的に判断して頻度を決めています。口腔内疾病予防に必要不可欠だけではなく、とてもさわやかになります。
質問2. いつ、どんなときに歯科医院に行けばいいのですか。
 ほとんどの人が、痛くなったときにはじめて歯科医院に行きます。しかし、その痛みの原因が虫歯であったなら、その虫歯は発生からだいぶ時間が経過して取り返しのつかない大きさになっていることが容易に想像されます。痛みをとるために歯を切削する必要も出てくるでしょうが、それではご自身の歯がなくなっていくだけです。もしその痛みの原因が歯周病であったなら、その歯周病はひどく進行していて歯を抜かなければならない状況になっている可能性もあります。
 う蝕の発生や進行がほとんど解明され、また歯周病についても進行のコントロールが可能となってきました。ぜひ、定期的に歯科医院に行きましょう。定期的にバイオフィルムを除去することで、う蝕の発生、進行がコントロールできます。また、歯周病についてもチエックをしながらコントロールしていきましょう。P(M)TCとよばれるお口の清掃を定期的に行い、お口の中で困ったことのない状況を長く維持していきたいものです。歯科も予防の時代です。そのためには、かかりつけのホームドクターをもち、定期的にアポイントを取ってください。
質問1. バイオフィルムって何ですか。
 う蝕や歯周病は感染症です。このようなあってはほしくない感染症を引き起こす細菌には、多数集まってコロニーを作り、複雑ではがれにくいという特徴があります。歯科ではこのような細菌の集団をプラークと呼んでいましたが、最近になってバイオフィルムという概念で考えられるようになってきました。バイオフィルム感染症という病態概念に含まれる感染症として、う蝕や歯周病のほかに慢性呼吸器感染症や細菌性心内膜炎などが当てはまります。
 バイオフィルムは、歯垢のほかに、、川底の岩を被うぬるぬるとした物質、花を生けて2,3日すると花瓶の内側に決まって現れるぬめりなど、どこにでも現れます。バイオフィルムの形成、増殖の過程は以下のように考えられています。@浮遊している細菌細胞が表面に降りてきてクラスターを形成し、付着する。 A集合した細胞がねばねばしたマトリックスを形成し始める。 B細胞は互いにシグナルを出して増殖し、マイクロコロニーを形成する。 Cバイオフィルム内の環境にばらつきが生じ、複数の菌種が共存したり同じ細菌がさまざまな代謝状態に置かれるようになる。 D一部の細菌は自由な生存形態に戻り、バイオフィルムから出て行きこれがまた新たなバイオフィルムを形成する。バイオフィルムが成長していくと、細菌の分布が階層化して微小環境が作られ、多数の細菌が共存できるようになります。さらにグルカンなどの多糖体に守られてさらに細菌にとって住み良い環境になっていきます。
 細菌バイオフィルムの除去はう蝕の予防、歯周病の予防や治療、さらには細菌の少ないお口で生活していただくためには絶対に必要なものと考えられています。しかし、現在広く使用されている抗生物質や消毒薬は、バイオフィルムの構造からバイオフィルム中に十分に浸透しなかったり細菌までもし到達しても効果はほとんどありません。したがって、除去のためには定期的に機械的な清掃を行うことは欠かせません。
 PTCと呼ばれる口腔内のクリーニングを定期的に行ってください。このようなバイオフィルムを定期的に破壊することによって、細菌の棲家が減少し、その結果細菌数も大きく減少してう蝕や歯周病の予防になるだけでなく、さわやかなお口で生活できます。
(参考文献  J.W.コスタートン、P.S.スチュアート:細菌コロニーの砦を攻略する、日経サイエンス2001年10月号、p38-46.